お目出たき人 |
| 武者小路実篤(著) |
| 新潮文庫 |
| ★★★☆☆ |
山田風太郎や高橋源一郎の引用やらでしばしば目に触れる武者小路実篤の『ますます賢く』、
と続くこの作品には、ご多分に漏れずクラクラする。 しかし、今や武者小路実篤の代表作なのかも知れないこの文章を「老い」という範疇で片付けるのは容易いにしても、 著者26歳で発刊された『お目出たき人』を併せ読めば、違った印象を受けることになる。 阿川佐和子が解説で述べている「……たった二ページの間に五回も「自分は女に餓えている……」」と反復する手腕も素晴らしいが、
という文章はどうだろう? 例えば、前半「自分はどうも……死ぬような気がする」を赤で、 後半「さもなければ……雷と隕石があぶない。」を青で印刷して、赤青眼鏡で眺めてみたら、 何か立体が浮かびそうではないか……。つまり、われわれが二文(以上)を同時に読めるのならば、 逡巡する思考がここに膨らみを持って現前するかも知れない。 この混沌とした思考を、 瞬間的な出来事だと読んでも、ここに書かれた順に時系列的に発生した出来事だと読んでも、この無邪気な実況中継ぶりは、 最早心理描写の領分を越え、文章という装置の直線的・時間的な振る舞い (可能性? 限界?)を露わにしている。 そしてこの文章表現に対する特異な告発が、武者小路実篤の26歳と89歳の作品を繋いでいるのだ。
武者小路実篤 U.U.
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