食糧と人類 飢餓を克服した大増産の文明史 |
| ルース・ドフリース(著) |
| 小川敏子(訳) |
| 日本経済新聞出版社 |
| ★★★☆☆ |
| カバー袖にあるように「(…)人類が自然をコントロールし、食料生産を増やしていった過程を歴史的観点から描く壮大な文明史」の本。 想像できるだろうか。トマトのないイタリア料理、唐辛子のないインド料理、キャッサバをつぶしたフフのない西アフリカの食生活を。ヨーロッパから北米に入植した人びとが幌馬車に乗っていない、フランスのカフェでコーヒーを扱っていないという光景を。(p.129) ……という「コロンブスの航海後、東半球と西半球のあいだで起きた動植物をはじめさまざまな交換(p.125)」である「コロンブス交換」について知りたくて手に取ったが、もっと以前、太古の昔に、人類が火を使いこなすまでの「創意工夫」、「社会的学習の費用対効果」に関する考察も面白かった。 環境の変動が一〇世代から一〇〇世代の幅で起きているとすると、ゆるやかな変動期には遺伝が有効であり、急速な変動期には個別学習しなくては間に合わない。その中間地点で社会的学習がもっとも有利な戦略となる。(p.61-62) しかし、何と言っても、白眉は、「ハーバー・ボッシュ法」と「リン鉱石」だ。農芸化学の基本、NPKの肥料の三要素については、栽培上の実践的な知識として学んでいた。しかし、土壌に補給する窒素が硝石から空中窒素固定法としての「ハーバー・ボッシュ法」へと切り替わったことと、リンが骨から地中の「リン鉱石」へと切り替わったことが、定住生活の農耕で土がやせていく難題を解決するパラダイム・シフトであった、という科学技術史的アプローチを、日常の土壌肥料学的アプローチと見事に交錯させてくれた。 ハーバー・ボッシュ法で製造された肥料でつくられる食料――その肥料を使った穀類を飼料とする家畜の肉と乳製品も含め――で生きている人の割合は、二一世紀初頭で一〇人あたり四人である。(p.147) 特に真新しいことが書かれているわけではないのに、食糧と人口という切り口で俯瞰的にとらえることによって、我々に新鮮な視線を、食糧問題を考える上での科学技術史的な遠近法を与えてくれる良書。参考文献リストもしっかりしていて良い。 |
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U.U.
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