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蜘蛛男


江戸川乱歩(著)
春陽堂文庫

★★★☆☆


 東京創元社による「内容紹介」は以下の通り。


 次々と若い女性を誘拐し、惨殺する恐るべき殺人鬼〈蜘蛛男〉。 彼はまず里見芳枝を空家の浴槽で殺し、切断して石膏像に見せかけ、衆目に曝した。 次いで芳枝の姉・絹枝の心臓をえぐり、江ノ島の水族館の水槽に浮かべる……!  異常な〈青ひげ〉殺人犯と戦う犯罪学者畔柳博士。乱歩の通俗ものを代表する戦慄の長編。


 ……え、絹枝の心臓、えぐられていたっけ? というのがこの「内容紹介」を読んだ感想で、 確かに本文を読み返してみると「鋭利なる刃物で心臓部をえぐられていた」と書いてある。

 それはともかく、「ここでちょっとお話の向きを変えて、この物語のもうひとりの大立て者である畔柳博士のことに移るが」とか、 「さて、お話を前にもどして、野崎三郎のその夜の行動を、少しくしるしておかねばならぬ」とか、「お話は二十分ほどまえにもどる」とか、 「お話は変わって、新宿から二時間足らずの工程、(…)」とか、場面展開における異常な慎重さが印象的だ。 「お話を『前』にもどして」と「お話は二十分ほど『まえ』にもどる」と、字句の違いも拘りなのかどうか気になるところだが、 江戸川乱歩という小説家は、必要以上に真面目なところがあるとの感触を受ける。シークエンスを繋ぐ度に何かと説明せずには要られない几帳面さ。もっと適当でもいいんじゃないの? という気もするが、 自然に繋ぐにはかなりの労力を要するので、ついつい諦めがちな目まぐるしい展開を、この執拗な合図という戦術で、さしたる葛藤もなく、 可能にしているとも言える。自由を棄てて得る自由という感じか。
U.U.

特集:××男