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東京 ("さよならストレンジャー")


くるり
Label: SPEEDSTAR RECORDS
Releace: 1999

★★★★☆


 日本のロックバンド、くるりの1枚目のシングル「東京」は、1998年10月21日発売。1999年4月21日発売の1stアルバム『さよならストレンジャー』にアルバムミックスが収録されている。



 この曲の「君が素敵だった事 / 忘れてしまった事」という歌詞に痺れているのだが、その素晴らしさは、「君が素敵だった事」と「忘れてしまった事」を別の事柄の羅列としても聴けるし、「君が素敵だった事」を「忘れてしまった事」とも聴けることに尽きる。

 次のサビで「君が素敵だった事 / ちょっと思い出してみようかな」という歌詞が出てくることから、「君が素敵だった事」を「忘れてしまった事」について歌われていたと知れてしまうのは、やや蛇足な気がするほどで、いや、1997年11月21日発売のインディーズ1stオリジナルアルバム『もしもし』のバージョンでは、「君が素敵だという事を / 忘れてしまった事」と歌っているのだし、「君が素敵だった事」を「忘れてしまった事」であるには違いないのだろうが、「君が素敵だという事を / 忘れてしまった事」のストレートなほとばしりから、「君が素敵だった事 / 忘れてしまった事」の「君」の視線を意識した躊躇いへの移行は決定的だと思う。



 つまり、「君」に語りかける体で始まった歌が、次第に感極まってモノローグ化していく中で、「君が素敵だった事 / 忘れてしまった事」という言葉の見せる微妙なデリカシーが心を惹き付けるのだ。

 「君が素敵だった事」以外にも勿論沢山の「忘れてしまった事」があって、「君が素敵だった事」も、この「忘れてしまった事」に入りつつあって、いや、本当はそういうわけじゃなくて、そもそも、「君に電話したくなった」だけで、徹頭徹尾モノローグに過ぎなくて、取り返しのつかないことを取り返そうとしているのだけれど、取り返しがつかないということは既に自分でも分かっていて、噴出する感情に突進する自分 vs. 喪失を既に受け入れつつある自分を客観視する自分――感情に突き動かされた自分からすればこの自分が最大の敵なのだが――、また、君へ何かを伝えようと抑制する自分 vs. 自分が結局は何も伝えないであろうことを知っており一方的な想いを叫ぶ自分、……と、この誰に頼まれたわけでもないのに、勝手に一人で揺れ動いている姿。これは、すなわち、感じることと伝えることの間での宙吊りになった、出さなかった手紙の魅力なのだ。

 完璧な造形美を求める一方で(その過程での)造形美の人間的な綻びにも感じ入ってしまうのが、われらロマン派の末裔の悪癖であり、かねてより、興奮すると声が裏返って逆にマイクに乗らない『日本の仁義』の野坂昭如の喩えを連発しているところでもある→ノヴァーリス『青い花』ロラン・バルト『恋愛のディスクール・断章』

U.U.