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箱男


安部公房(著)
新潮文庫

★★★★☆


 1973年に新潮社より刊行された安部公房の『箱男』は、新潮文庫裏表紙のあらすじによれば、


ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、 覗き窓から何を見つめるのだろう。 (…)贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。(…)実験的精神溢れる書下ろし長編。


であるが、何はともあれ、『方舟さくら丸』、『カンガルー・ノート』といった 晩年の長編の手法がここに完成されている点が印象的だ。 荒唐無稽ともいえる幾多の鮮烈なイメージを繋いで(しかし、繋ぎすぎず)物語を縒って(しかし、縒りすぎず)、 補完と放置の見極めにより、縫合痕を残したままイメージとイメージの連鎖・落差を形作る。 そこで物語(明晰)と曖昧(神秘)を匙加減することによって、空間を構成するという手口に違いない。

 しかし、もちろん、ここで繰り広げられているのは単なる匙加減なんてものではなくて、尋常じゃない推敲により、 いつしか「物語」と「曖昧」の配合といった小賢しくも技術的な問題など遥か彼方、 作品は「明晰な神秘」というあり得ない代物(矛盾そのもの)に辿り着いている。 だから、「見る/見られる」という縦糸をアリバイのように通していても、恐らくこれは長編小説ではない。 贋長編小説? いや、全ての長い小説が長編小説である必要などどこにもないし、 本物と贋物なんていつでも交換可能なのだから、本物が贋物よりも優れているなんてもう誰も信じてはいない。……え? そういう話じゃなかったっけ?  「でも、このノートは本物なんだよ。(…)」(p.189)。

 尚、見開きの紹介文は以下の通り。

安部公房
Abe Kôbô
(1924-1993)
東京生れ。東大医学部卒。1951(昭和26)年、「壁」で芥川賞受賞。’62年発表の『砂の女』が読売文学賞、 フランスの最優秀外国文学賞を受けた他、戯曲「友達」の谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』の読売文学賞等、受賞多数。 ’73年より演劇集団「安部公房スタジオ」結成、独自の演劇活動を展開。’77年には米国芸術科学アカデミー名誉会員に推され、 海外での評価も極めて高く、急逝が惜しまれる。


U.U.

特集:××男